PEACE COMMUNICATION

「平和をコミュニケーションする」ための教育プロジェクト

『PEACE COMMUNICATION』は、2007年度より東京外国語大学・大学院の新しい平和学のカリキュラムとして開発。現在は、海外の大学での特別講座や書籍の出版など、大学カリキュラムの枠を超えて展開しています。

このカリキュラムは、2007年度から2022年度まで東京外国語大学・大学院で開講され、そのほか、ヨルダンやルワンダ、フィンランド、アメリカ・UCLAと共同で行うCOIL型授業などに展開。

また2015年には、本カリキュラムをベースとした書籍『なぜ戦争は伝わりやすく 平和は伝わりにくいのか 〜ピース・コミュニケーションという試み〜』(光文社新書)が出版されました。

 

Peace and Conflict Studiesとは

東京外国語大学・大学院「平和構築・紛争予防専修コース(Peace and Conflict Studies:通称PCS)」は、同分野における日本初の研究教育組織として、世界各地の紛争を多角的な観点から研究し、紛争の解決と予防、そして平和構築の方法を探求することを目的とした東京外国語大学大学院に開設された専修コースです。開講科目は、PCS演習のほか、国際法や国際協力、国際政治や危機管理、ヨーロッパ・アメリカ・アジア・中東の地域研究などの豊富なカリキュラムが用意されています。

また、シリア、イラク、アフガニスタン、シエラレオネやボスニア、コロンビア、アメリカなど紛争当事国からの留学生を中心とした専修コースのため、研究者を目指して進学してきた学生以外にも、NGOの現場で働いてきた元職員や、軍の司令官を務めていた元軍人など、文化や宗教の違いはもちろん、世代や経歴も多様な背景を持った生徒たちが集まっています。

【受講生出身国】 スーダン、アイルランド、インドネシア、ボスニア、スリランカ、エジプト、キリギスタン、イラク、アフガニスタン、ネパール、コロンビア、マケドニア、モザンビーク、中国、エストニア、カナダ、ロシア、アメリカ、ほか

PEACE COMMUNICATIONとは

PCS全体のカリキュラム内で、PEACE COMMUNICATIONは主に「Outreach(アウトリーチ)」に関する能力育成の役割を担っています。アウトリーチとは、何らかのメッセージや情報を届ける活動全般を指し、平和構築の「現場」においてはとても重視されている活動である一方、アカデミックにおいてはあまり注視されてこなかった分野でもあります。

そもそも情報や広告コミュニケーションの技術というのは、常に「戦争をつくり出す側」に利用されてきた歴史があります。いわゆる「プロパガンダ」と呼ばれるもので、第二次世界大戦時の日本やドイツ、冷戦後のボスニアやルワンダ内戦、近年ではIS(イスラム国)がインターネットを中心に巧みな情報戦を展開しました。PEACE COMMUNICATIONでは、そのようなプロパガンダやメディアへのリテラシー能力を向上させ、コミュニケーションの観点から平和構築分野の案件形成ができる人材育成を目的にカリキュラムが作成されています。


カリキュラム内容

具体的な授業内容は、コミュニケーション技術を戦争に活用してきた歴史や、権力者によって開発された「プロパガンダ」に関する法則。情報発信側に立って「メディア・リテラシー」を考えるメディア論。また、世論形成に深くかかわる「大衆心理」の構造や、戦争記憶の継承と「平和教育」との関係を考えるリサーチ課題など、さまざまな平和構築のテーマをコミュニケーションの観点から捉える構成となっています。

カリキュラム全体の根底にあるのは、「相手の前提に立つ」という異なった視点の導入です。「平和」の重要性は誰もが共有できる概念でありながら、世の中から「戦争」がなくなったことはなく、その「伝わらない理由」を考えていくためには、自分以外の他者の視点から眺めてみるというアプローチが必須となります。その視点の中には「権力者」が含まれることもあり、「戦争の作り手」側の心理をシミュレーションして第三次世界大戦を開戦させる「戦争シナリオ作成」のワークショップなども実施しています。

 


書籍『なぜ戦争は伝わりやすく 平和は伝わりにくいのか』

2015年には、本カリキュラムを一冊にまとめた新書『なぜ戦争は伝わりやすく 平和は伝わりにくいのか 〜ピース・コミュニケーションという試み〜』が光文社から出版されました。内容は二部構成で、第一部では「権力者の法則」「メディアの構造」「大衆の心理」の3つの視点から、どのように「戦意(敵愾心)」が醸成されていくのかをコミュニケーションの観点で分析しています。続く第二部では、「これからの“平和教育”のあり方」をはじめ、戦後70年を迎えた日本人にとって「戦後71年目からの宿題」を見つけていくために、「反戦」だけでは伝わらない新しい平和論のカタチを考えていく内容となっています。

※刊行時のインタビュー記事(シノドス)はこちらから


※本書内容は、さまざまな高校や大学の入試問題(国語)として採用され続けています

なぜ「ピース」と「コミュニケーション」が出合ったのか?

そもそも、なぜアソボットのようなコミュニケーション業界の会社が、「平和構築」や「紛争予防」というジャンルに本格的に関わるようになったのか。その理由は、アソボットが発行していた『GENERATION TIMES』の取材でPCSコース講座長である伊勢﨑賢治教授と出会ったことでした。取材当時は、伊勢﨑氏はまだ大学教授ではなく、「紛争解決人」の肩書きで「DDR」と呼ばれる国連PKOミッションを実行する職務でアフガニスタンなどで活動していた頃です。

DDRとは、「武装解除(Disarmament)」「動員解除(Demobilization)」「社会復帰(Reintegration)」の略称で、軍事分野における交渉ミッションのこと。実際の紛争地では、戦争があることが日常となり、そのことによって生活が営まれている現状もあるため、武器を置いたらどのようなメリットがあるかの利害調整が必要となります。反政府軍や軍閥相手にプロフェッショナルな交渉人として活動してきた伊勢﨑氏にとって、戦争をつくるのは「権力者」であっても、戦争の空気を作っていくのは「メディア」であるということ。そして、「プロパガンダ」と呼ばれるメディアを使ったコミュニケーション戦略によって、ルワンダ内戦のように「ふつうの人」が虐殺に駆り立てられてしまうということ。そのようなリアルな紛争地での現場体験が、このカリキュラムを立ち上げることになった背景にありました。

 

PEACE COMMUNICATIONの現在

現在は、東京外語大学のカリキュラムの枠を超えて、さまざまなカタチで国内外での活動を展開しています。

2017年、NPO法人エドテックグローバルからの依頼で、国外初となるPEACE COMMUNICATIONの出張授業を実施。中東地域のヨルダンでは、同国に亡命したため高等教育の中断を余儀なくされたシリア難民の若者を対象に授業を行いました。またアフリカのルワンダでは、22年前の内戦を知らない世代とともに、新たに「平和」の意味を考えるワークショップを実施しました。

 

また、広島県主催で開催された『2016国際平和のための世界経済人会議~平和のためのマーケティング~』では、「平和キャンペーンのためのコミュニケーション・デザイン」のセッションにおいてモデレーターを務めました。本会議は、基調講演に「現代マーケティングの父」であるフィリップ・コトラー教授が登壇するなど、ビジネスと平和構築のあり方を多面的に議論し、核兵器のない平和な世界の実現に向けた国際世論の喚起を目的としたものです。

 


セッション「平和キャンペーンのためのコミュニケーション・デザイン」
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