平和のためのコミュニティラジオ局(東ティモール)

平和のためのコミュニティラジオ局の設立事業

JICA草の根支援事業として、NGO・沖縄平和協力センター(OPAC)と共に2010年から2016年の計6年間にわたって実施した「沖縄・東ティモール地域力強化を通じた紛争予防協力」事業です。

本プロジェクトは、コミュニティ&メディア開発の専門家として、プロジェクト全体のデザインおよび人材育成を担当しました。具体的には、「平和のためのコミュニティラジオ局の設立」をビジョンに掲げ、現地の若者たちを「地域コーディネーター的ジャーナリスト」として育成し、地域住民を巻き込む番組や仕組みを作ることで「コミュニティの平和構築」を目的として実施されたものです。

以下、このプロジェクトが生まれた背景や、案件形成されるまでのプロセスを紹介します。

東ティモールは、人口約110万人、インドネシアの東、オーストラリアの北に位置する小さな島国で、400年にもわたってポルトガルの占領地となった後にインドネシアによって侵略され、長らく内戦が続いていた地域です。2002年に独立を果たした21世紀最初の独立国家ですが、独立後も2012年まで国連PKOが駐留していました。そういった歴史的背景のなか、東ティモール内で特に住民同士の紛争が激しかった地域と言われる人口6万人のコモロ村で、コミュニティをベースとした「平和構築」のモデル事業として実施されたのがこのプロジェクトです。

 

コミュティビジネスではなく、コミュニティメディアを

紛争の背景にはさまざまな要因がありますが、特に同地域では「若者の失業」が大きな課題とされていました。多くの若者たちは生きがいや目標を持っておらず、日中から若者たちは道でたむろし、何かきっかけがあるとすぐに暴力に発展するといった状況でした。当初の事業計画も、そのような状況を解決するために「地域雇用を創出する」といったコミュニティビジネス的なアプローチが検討されていました。

しかし、一般的に「コミュニティビジネス」の手法というのは、雇用規模は数人程度で地域全体に裨益させることは難しく、特に東ティモールのようなポスト紛争地においては、雇用された人とされなかった人との格差が「新たな紛争の火種」となることが懸念されます。そこで、より地域全体がコミットできるものとして構想したのが「住民同士がつながる場」としてのコミュニティメディア(ラジオ)でした。人知れず地域住民が集う集会所のような役割を果たし、住民の絆を強めていくことでコミュニティを活性化していくというアプローチです。

 

「コーポラティブ」な支援アプローチ

これまでも、国際協力業界では「ラジオ局の設立支援」の事例は存在しています。実際、東ティモールにも他国の援助機関によって設立されたラジオ局がありました。しかし、建物や機材設備といった「ハード支援」の手法であったため、設立してからしばらくすると、毎日ただ朝から晩まで音楽だけを流す「ミュージックボックス」となってしまい、コミュニティとの接点は一切なくなってしまいます。そこで当初よりこのプロジェクトでは、ラジオの設備支援を行うことは目的とせず、「ソフト支援」のアプローチを重要視してきました。コミュニティラジオというよりも、「コーポラティブラジオ」的なアプローチです。

近年、住宅業界で注目されている手法に『コーポラティブハウス』と呼ばれるものがあります。これは住宅の設計“前”の時点で居住者を募集し、設計の構想段階から顔を合わせてお互いのニーズやアイデアなどを出し合い、住宅が完成する頃には「隣人関係がすでに形成されている」ことを目指したユニークな設計手法です。このアプローチを応用し、本プロジェクトにおいてもあえてラジオ開局までの期間を長めに設定し、その間のプロセスで少しずつチーム形成を行い、やがて若者たちを中心にコミュニティへとつなげていくという事業デザインとしました。

 

4つのプロセス

このプロジェクトは、大きく分類すると4つの段階に分かれています。

Step1:Team Building (リクルーティング期)

まず最初の段階では、プロジェクトの存在自体を知ってもらい、若者に興味関心を持ってもらうためのトークイベントやセミナー等を数多く実施しました。村は31の小地域に分かれているため、各地域のリーダーからの推薦で若者に声をかけて少しずつ友人の輪を広げていきながら、その若者たちと一緒に地域住民にさまざまなニーズ調査を実施していきました。


Step2:Capacity Building (トレーニング期)

次の段階は、いわゆる「トレーニング研修期間」です。講師はできる限り現地のジャーナリストやメディア機関に依頼し、「ジャーナリズムとは何か?」「どのように取材計画を立てるか?」「ミキシングや編集の方法」など、ラジオの番組制作に関わるさまざま研修を実施。地域に根付いている地方ラジオ局への視察ツアーも行うなど、モチベーションの継続性が特に重要な段階でした。


Step3:Contents Building (コラボレーション期)

この段階になると、メンバー内での「個性の違い」が明確になってきます。取材が好きな子もいれば、ナレーション好きな子や、職人気質のエンジニアもいます。そこで、彼らの違いを考慮して各自に「役割」を分担し、ひとつの番組を協働して制作する機会の創出がこのステップでは最も重要なテーマでした。他のラジオ局と連携してインターンシップをさせたり、他局内に自分たちの番組枠をもらってプレ放送を開始するなど、開局前に多くの実戦経験を積ませました。


Step4:Community Building(リレーション期)

開局に向けての最終段階となるこのステップでは、「コミュニティ」をいかに巻き込んでいくのかがもっとも重要なテーマでした。たとえば、番組に対するリスナー意見会の実施や、ラジオ局の名前を候補の中から住民に選んでもらう「ネーミング選挙」の開催、またアンテナの設置も住民協働で行いました。さらに、ラジオ局が政治等の特定団体に利用されないよう、教会や青年会など村内で活動するさまざまな団体組織のリーダーに後見人となってもらい、中立的なコミュニティ組織の下にラジオ局を位置付ける定款も作成しています。

これからのラジオの姿

開局後は、いろいろな番組を企画しています。ある日の番組では、村のゴミ問題を取り上げて地域が抱える問題を提起したり、村長に出演してもらって村の未来を語ったりするなど、コミュニティに必要とされるラジオ局であるための理想の姿を模索中です。

コミュニティラジオの存在は、単に住民にとっての「情報共有の場」というだけでなく、住民たち自らがラジオ運営に参加することで、生きがいや夢を持つきっかけの場となりえます。実際、若者たちはラジオ運営の経験を活かして新たな就職口を見つける者たちもでてきており、近隣の高校生や大学生をインターンシップとして受け入れる試みも始まっています

2017年には、5年に一度の大統領・議会選挙が実施された東ティモール。メディアを使った国民の選挙リテラシーの向上が課題となっているなか、このラジオ局が中心となって国連開発計画との協働プロジェクトも行われました。

 

<プロジェクトをまとめた映像>

CREDIT

企画プロデュース:アソボット

協働:沖縄平和協力センター(OPAC)

助成:国際協力機構(JICA) 2010-2016/国連開発計画(UNDP) 2017-2018