2012年にオーナー会社の変更により新しい球団として生まれ変わった『横浜DeNAベイスターズ』。スポーツ事業を営む会社としての社内の活性化や、球場のある地域コミュニティとの連携など、今までのプロ野球チームとは異なる新たなコミュニケーション施策に関するクリエイティブワークを手がけました。
プロ野球チーム・横浜ベイスターズは、2012年にオーナー会社の変更により『横浜DeNAベイスターズ』へと生まれ変わりました。もともと長く野球界に関わってきた人と、新しく球界を進化させようとする人たちとの間にはどうしても「ギャップ」が生じます。そこで、横浜DeNAベイスターズ社内全員にビジョンを共有するためにつくったのが『次の野球』です。ビジョンを共有するといっても、今回のようにオーナー会社が変更したようなケースでは「トップダウン」の手法はあまり有効ではありません。そこで、これまで球界にあった既成概念にとらわれることなく、全社員、全選手、全コーチが自由な発想で「野球をもっとおもしろくするため」のアイデアを出し合い、それらをまとめたものがこの本です。
「子どもたちが寝転ぶことができるシート」「ビールが飲み放題のシート」「パラシュート降下して選手が登場する」「ファンがスタメンを決める日」など、実に160ものアイデアが集まりました。中には突拍子もないアイデアもありましたが、この内のいくつかは実際にスタジアムや球場演出などで採用され、メディア露出への話題作り、観客動員アップへとつながっていきました。何よりも「一冊の本」としてチーム内に配布されることで、「会社=球団」としてのビジョンが共有され、それまでの社内の空気に変化を及ぼしたことが、もっとも重要なコミュニケーションの醸成です。
※本企画は一般書籍化されポプラ社より出版されています
編集:今村亮(asobot inc.)
デザイン:寄藤文平(文平銀座)
発行:ポプラ舎
2012年の一試合の平均観客動員数は約1万6千人。横浜スタジアムには約2万9000ものシートがあるため、満員にはほど遠い状況でした。そこで2014年度からは、「地元開幕戦」に向けた広告展開を大幅に拡大。スタジアムから関内駅、日本大通り駅までを「ベイスターズタウン」と位置づけ、駅構内の壁や改札、階段、電車内に留まらず、街を走る路線バスやマンホールなど、街中のあらゆる場所に広告を掲出。新たなチームイメージへの刷新を図りました。
開幕広告のコンセプトは、チームが低迷する中で「決して諦めないプロとしての姿勢」を表現するために「いざ。」とキャッチコピーを掲げ、選手たちがスタジアムへ向かって歩くコンコースの姿をビジュアル化。新チームとなって二年が経過したことで、話題だけでなく「優勝を目指して戦うチームとして準備が整った」というメッセージを込めました。また、主力選手一人ひとりのポートレート写真には、選手本人の言葉としてそれぞれの特長を示すボディコピーを掲載。当時のメインターゲットであった横浜市内のビジネスパーソンに向け、「選手」も「ビジネスパーソン」も同じプロフェッショナルとして「勝負の日をどう迎えるか」という気持ちをビジュアル表現にしています。
クリエイティブディレクション:今村亮(asobot inc.)
アートディレクション&デザイン:石川ヤスヒト(river inc.)& nanilani
フォトグラファー:皆川聡(mild inc.)
コピーライティング:今村亮(asobot inc.)
©YDB
2014年は、最終的に一日の観客動員数が2万1千人を超え、2015年度はさらなる進化が求められる年となりました。チームカラーを「ヨコハマブルー」と名付け、ヘルメットは光沢の入った青々としたカラーにユニフォームも一新。そこで「第二幕、始まる。」とのコピーとともに、新しい青(ヨコハマブルー)を全面に打ち出したキービジュアルを作り、横浜スタジアムや周辺のベイスターズタウン内を「青一色」にするための広告を展開。地域の人に「ブルー=ベイスターズ」と認識されるイメージ訴求を行いました。
クリエイティブディレクション:今村亮(asobot inc.)
アートディレクション&デザイン:石川ヤスヒト(river inc.)& nanilani
フォトグラファー:皆川聡(mild inc.)
コピーライティング:今村亮(asobot inc.)
©YDB
観客動員数は一試合2万5千人までに上昇し、その上昇率はマスコミにも取り上げられ注目を集めるようになっていました(2015)。2万9千人という横浜スタジアムのキャパシティは、今後の球団の発展を考慮すると「新しいスタジアムのカタチ」を明示する時期に差し掛かっていた中、発行したのが書籍『BALL PARK』(ダイヤモンド社)です。同書籍の編集プロセスを通じて、本場アメリカのスタジアムを一つひとつ丁寧にリサーチ。その結果、あらゆるファン層が楽しむことのできる「BALLPARK(楽しむための野球場)」になるための9つのファクトを抽出しました。その9つは、「COLOR(色)」「ENTERTAINMENT(演出)」「SEAT(シート)」「HISTORY(歴史)」「BALL “PARK”(公園)」「FOOD(食)」「GREEN(芝)」「BEYOND(超越)」「LANDSCAPE(景観)」で、これらのファクトを野球になぞらえ、打順の1番から9番というカタチで編集し、書籍としてまとめました。書籍発売後には、友好的TOBによって横浜スタジアムの買収にも成功し、ファンや地域などとビジョン共有に向けたファースト・メッセージともなっています。
エディトリアルディレクション:今村亮(asobot inc.)
ライター:一村順子、内瀬戸久志、海老沼邦明、四竈衛、丹羽美佳子、宮内敬司、山野恵
アートディレクション&デザイン:米持洋介(case)
フォトグラファー:DYSK
発行:ダイヤモンド社
©YDB
2016年を最後に引退した「ハマの番長」こと三浦大輔投手。横浜DeNAベイスターズにとってもっとも大切なレジェンドの引退に、世代や球団の枠を超えて全国のファンから惜しむ声が寄せられました。そこで球団は、三浦投手が引退する決意を知ってからチーム内にも極秘で三浦投手の日々をカメラで記録。引退記念の写真集&ドキュメンタリーDVD『永遠番長』として発売されました。
DVD/Blu-rayとなっている映像ドキュメンタリーでは、高校野球時代から現役最後の一球までをまとめた動画とともに、表舞台では知られてこなかった25年もの野球人生の裏側を、三浦投手本人へのインタビューやチームメート、かつての指導者などへの取材から浮き彫りにする内容となっています。
また写真集では、幼少の頃にキャッチボールをするところから始まり、少年野球、高校野球の頃へと進み、決して「野球エリート」とは言えなかった三浦投手が当時を振り返ります。91年にドラフト6位で入団してからは、誰もが認めるチーム一の練習量をこなす一方、リーゼントスタイルで目立つことを決断したり、慢性的な持病で選手生命も危ぶまれたことなど、ヒーローの裏側に潜む真相などが語られています。
〈書籍〉
エディトリアルディレクション:今村亮(asobot inc.)
アートディレクション&デザイン:米持洋介(case)
発行:ダイヤモンド社
〈映像〉
クリエイティブディレクション:今村亮(asobot inc.)
映像編集:スローハンド
装丁:米持洋介(case)
©YDB
野球というスポーツは、スタジアムの「グラウンド」に常にスポットライトがあてられます。しかし、70名ほどいる選手の中で年間を通じてその光を浴びられるのはごく一部。また主力として活躍する選手たちにおいても、ダグアウト(ベンチ裏)ではさまざまな苦悩、葛藤があり、時に爆発的な喜びを表現することもあります。横浜DeNAベイスターズ公式ドキュメンタリーシリーズ『ダグアウトの向こう』と『FOR REAL』は、通常では絶対に見ることのできない選手の素顔を克明に照らし出した画期的な映像作品で、その広告ビジュアル、パッケージデザインなどを手がけています。
『ダグアウトの向こう』〈パッケージ / キービジュアル / ブックレット〉
エディトリアルディレクション:今村亮(asobot inc.)
アートディレクション&デザイン:石川ヤスヒト(river inc.)山﨑将弘(althouse)
『FOR REAL』〈パッケージ / キービジュアル / ブックレット / 劇場パンフレット〉
エディトリアルディレクション:今村亮(asobot inc.)
アートディレクション&デザイン:石川ヤスヒト(river inc.)山﨑将弘(althouse)
©YDB
スタジアムでは、野球だけでなくそこに訪れる人々の間でもドラマがあります。スタジアムでデートを繰り返したカップルのプロポーズや、一家団欒の場をスタジアムにしていた家族の物語など、ファンの数だけさまざまなストーリーがあります。このプロジェクトは、スタジアムに強い想いを持つファンの夢を叶えるプロジェクトで、シーズンを通して「DREAM PROJECT」と題してイベントを開催。たとえば、「横浜スタジアムで結婚式を挙げたい」「野球好きのお父さんにマウンドで投げさせてあげたい」など、ファンの叶えたい夢を募集し、その夢を実際に横浜スタジアムで叶えていくというものです。その実現までの物語をドキュメンタリーとして映像化しています。
クリエイティブディレクション:今村亮(asobot inc.)
映像制作:プラミッドフィルム
シネマトグラファー:任田辰平(KATT inc.)
©YDB