週末アドベンチャートリップ
「観光」や「移住」とも異なる地域との新しい関わり方
「東京には、贅沢な裏庭がある」というプロジェクトコピーをもとに、観光とは異なる新たな旅スタイルの提案として『週末アドベンチャートリップ』と名付けた地域プロジェクトを立ち上げました。
かつて「温泉リゾート地」として賑わいを見せた伊豆半島。観光地としては「昭和ブランド」となったこの地に、新たな資源を発掘してイメージを再構築していく地域ブランディング事業の取り組みです。
フィールドリサーチして見えたこと
首都圏から車や電車で約3時間。自家用車であれば、都内から高速代・ガソリン代を入れても約1万円で往復が可能な距離に伊豆半島はあります。かつては、近場の「温泉リゾート地」として人気を博していましたが、交通インフラなどの発展により、現在は京都や奈良はもちろん、九州や北海道、沖縄、または韓国や台湾など、「旅行」「観光」のキーワードで検討される短期旅行先の選択肢は豊富に存在しています。そのような中、伊豆半島に再びどのような目的で訪れてもらうのか。その検討から始まりました。
現地をフィールドリサーチする過程で、想定以上に存在していたのが「アウトドア・アクティビティ事業者」。サーフィンやシーカヤック、パラグライダーやマウンテンバイクなど、少なくとも50以上が南伊豆エリアを中心に点在していることがわかりました。
たしかに、伊豆半島は本州で唯一、フィリピン海プレートの上に乗っている地域で、現在も火山活動や地殻変動が続いているため、豊かな温泉や日本一深い駿河湾など、国内では珍しい地形を多数有しています。その風土を活かしたアウトドアレジャーを体験できる事業者が、伊豆半島各地に数多く点在していたというわけです。
課題は「インナー・コミュニケーション」
これだけの数の事業者が存在するにもかかわらず、そのイメージが地域外に浸透していない理由には、各事業者が「単独営業」していることが原因ではないかと考えられました。一つひとつの事業規模は小さく、「オーナー兼インストラクター」といった事業形態も数多く見受けられました。より大きな問題は、繁忙期は互いに忙しいこともあり、相互の事業内容をよく知らないこと。つまり、点在する事業者同士の横のつながりが極端に少ないということです。
そこで、単独営業をしている各事業者同士をつなぐこと。そして、その構築したネットワークで同一のビジョンを共有して地域外に発信していくこと。それらを優先的に行うことにしました。いわゆる、「インナー・コミュニケーション」の活動を通じて「地域ブランディング」へ発展させていくという試みです。
互いを知る「交流イベント」の実施
まず始めに、伊豆半島の現状と課題を共有し、プロジェクトへの相互理解を深めることを目的にした『伊豆半島meetingポイント』と名付けた交流会を実施。伊豆半島各地より48の事業者および地元キーマンおよそ100人を招待し、現状の課題や今後のビジョンを話し合う機会を設けました。
また、各事業者同士が互いのサービスを理解するための『アクティビティ体験ツアー』を定期的に開催。たとえば、水の流れと一体になって川や沢をくだるアクティビティ「キャニオニング」を、パラグライダーやマウンテンバイク事業者たちが体験したり、地元であるがゆえに一度も宿泊したことのなかった民宿に泊まってみたりと、お互いのアクティビティの純粋な面白さやサービス内容の「ユーザー体験」を継続的に行いました。
プロジェクトコピーの開発
互いが「顔見知り」になり「対話」を行う関係性は重要ですが、それだけでは単なる「ネットワーク」であり「コミュニティ」ではありません。目的を共有し、具体的に「コラボレーションする活動」が必要になります。そこで、どのように自分たちを地域外に発信していくかを考えるプロセスに移行しました。
ポイントは、東京と伊豆半島の距離を利点とし、「東京から近くて、観光より気軽に行ける場所」「週末に急に行きたくなっても、非日常を味わえる場所」といったことをどのように伝えるのか。もっともっと身近に感じて欲しい。その想いを込めて、「東京には、贅沢な裏庭がある。」というコンセプトを打ち立てました。自分だけでなく、多くの事業者のリソースを集めることで、それらを「贅沢な裏庭」と位置付けたのです。
来街者にとっての「裏庭」とは、会員制のジムに通うように、自分一人で、もしくは家族と一緒に、裏庭の秘密の遊び場に毎週末やってくるというイメージを想定。そうして、プロジェクト名が『週末アドベンチャートリップ』に決まりました。
コミュニケーション・ツールの開発
本プロジェクトにおいて重要なポイントは、地域内のコミュニケーションの活性化が、そのまま地域外へのコミュニケーションに直結しているということです。その二つの目的を満たすための「コミュニケーション・ツール」を開発を目指しました。
インフォメーションカード
伊豆半島で受けられるサービスの情報を、「アクティビティ(アウトドア)」「スパ(温泉)」「ステイ(宿泊)」「フード(食事)」の4つのカテゴリーに分類し、手軽に持ち出せるポストカードを作成。これらは、各事業者同士が互いのサービス内容を認識し合うためのカードでもあり、また自らの顧客に他の事業者をオススメをするためのツールでもあります。
インフォメーションセンター
およそ1畳ほどのサイズで作る家具のようなインフォメーションセンター。鉄道駅や道の駅などに設置され、来街者はここからインフォメーションカードを手に取ることでき、伊豆半島周遊のプラットフォームとして活用されます。横から眺めると、階段状のカード置き場が「プロジェクトロゴ」とも連動しているなど、構造にも工夫を凝らしています。
また、プロジェクトロゴを「ステッカー」にして各事業者等のオフィスに貼れるようにしたことで、来街者にとってどの場所が本プロジェクトに参加しているのかが一目でわかるようになっています。
伊豆半島の未来
現在、地元事業者たちは「週末アドベンチャートリップ」の実行委員会を作り、各種ツールを活用しながら事業の広報PRを行っています。これまで、同地域の活性化について誰に相談をすればいいのかわからずにいた人たちも、週末アドベンチャートリップを窓口に、多くの相談が寄せられるようになりました。
たとえば、鉄道会社とレンタカー会社が連携したユニークな観光キャンペーンの企画や、行政からの依頼による新たな観光モデルコースの開発。また、ふるさと納税を活用した広域連携の「寄付感謝券」を発行したりするなど、これまでバラバラだった地域活性化への施策が、週末アドベンチャートリップを中心にしてさまざまな展開が始まっています。
CREDIT
企画&クリエイティブディレクション:アソボット
アートディレクション&デザイン:米持洋介(case)
写真:岩間史朗
映像:Happy Monster
運営:週末アドベンチャートリップ実行委員会