まちの保育園
地域でこどもを育む、新たな保育園のカタチ
運営会社ナチュラルスマイルジャパンと共に、2011年4月の『まちの保育園 こたけむかいはら』『まちの保育園 キディ湘南C-X』の開園に向けて、園のコンセプト設計、クリエイティブワークを担当しました。
『まちの保育園』は、待機児童の問題とは別に、人格形成期の子どもたちにとって大切な保育のカタチを考え、「地域で育む」「地域に開く」をコンセプトに生まれた保育施設です。
待機児童とは異なるもうひとつの課題
東京近郊では、どの地域においても「待機児童数の増加」が大きな社会問題となっています。もちろん、それは解消されるべきハード面での大事な課題ですが、もうひとつのソフト面における大きな課題が見落とされがちです。それは、都市部の教育環境の価値観が母親や保育士などの「若い女性」に限定されてしまうという問題です。
社会の関心は、2020年から始まる教育改革に向けて、幼少段階から英語教育などの知能的発達を促す「知育」の関心が高まっていますが、「人格形成期」と呼ばれる0歳から6歳の子どもたちにとっての「他者との出会い」というものを軽視することはできません。
一方で、いわゆる「核家族化」や「地域コミュニティの崩壊」が進んだことによって、現在の子どもたちが日常で接する人のタイプはかなり限定的になっています。子どもがテレビの「ヒーロー」や「ヒロイン」に憧れると、すぐにそのキャラクターやスキルをまねしようとするのと同様に、多様な個性を持つ「大人」と出会うことによって、さまざまな価値観を自然と学ぶことになるはずです。そのことが、今後より一層「ダイバーシティー」となっていく現代社会で暮らしていくために、とても大切なことだと考えました。
『レッジョ・エミリア・アプローチ』から学ぶ
そのような保育園を実現するためにベースにしたのが、イタリアの『レッジョ・エミリア・アプローチ』と呼ばれる教育法です。レッジョ・エミリア教育(以下、レッジョ教育)とは、北イタリアの小都市レッジョ・エミリア市で生まれた教育法で、さまざまな専門的理論や教育思想を土台にしながらも、コミュニティ(共同性)の中で豊かな保育が行われることの重要性にも着目したアプローチです。
一方、レッジョ教育において「コミュニティ」が大切にされるということは、その地域の意志や価値観が保育に反映されるため、国や文化、地域が異なれば保育内容は変わってきます。そこで、「イタリアのレッジョ教育」をそのまま実践するのではなく、保育において「地域コミュニティの力を活用する」という思想を共有して、その想いを『まちの保育園』と名付けることにしました。
「コミュニティ・コーディネーター」という役割
地域コミュニティの多様な価値観を取り込む保育園であるために、ハード面とソフト面の両方から検討しました。ハード面においては、街路と接する場所に「カフェ」を併設し、保育園に通っている子どもたちの親だけでなく、地域の人にも利用してもらうことで、園との接点をつくるという試みです。
一方、ソフト面では「コミュニティ・コーディネーター」という新たな職種を設けました。この肩書きを持つ職員は、地域の歴史や文化的背景を調べ、どのような人が住んでいるか、どのような施設があるかを把握するところから始めます。そして、誰がどのような想いで暮らしているか、どのような時間帯に何をやっているか、地域や子どもへの想いはどうかなどを把握しながら、たとえば地域に暮らす消防士さんや植木屋さん、アスリートやミュージシャンなど、さまざまな住民と保護者、保育士との接点をつくるという重要な役割を担う存在です。
『まちの保育園』の現在の展開
2012年に『まちの保育園 ろっぽんぎ』、2014年に『まちの保育園 きちじょうじ』。そして現在は、代々木公園、代々木上原に『まちのこども園』と名付けた園を新たに開園するなど、運営会社のナチュラルスマイルジャパンは「まちの保育園」の思想をさまざまな地域の人たちとシェアしながら、まち全体を豊かにしていく活動を続けています。
CREDIT
まちの保育園 こたけむかいはら
運営:ナチュラルスマイルジャパン株式会社
インテリデザイン:宇賀亮介(宇賀亮介建築設計事務所)
グラフィックデザイン:山本和久(Donny Grafiks)
まちの保育園 キディ湘南C-X
運営:社会福祉法人伸こう福祉会
インテリデザイン:谷尻誠(SUPPOSE DESIGN OFFICE)
グラフィックデザイン:宮内賢治(K.M.design)