3on3 Fukaya

地域インフラを支えてきた会社が、コミュニティ・インフラをつくるようになるまで

埼玉県深谷市で70年にわたって地域のインフラを支えてきたセイフル株式会社。リクルーティングのためのコミュニケーション開発をスポーツマーケティングを通して行っていたところ、日本初の試みを一緒に挑戦するという思わぬ展開になりました。

経営を悩ませる、大きな2つの問題

セイフル株式会社は、埼玉県深谷市で創業70年を超える地場企業。1950年当時、地域課題であった“寒さ”を解決するため、深谷市内の家庭、事務所、店舗などへ燃料が行き渡るように『岡田燃料店』を設立したことがはじまり。その後、設備工事の会社となり、地域の大規模工場から小さな店舗までさまざまなニーズに対応し、街のインフラづくりを下支えしてきました。

2020年、セイフル株式会社は2つの大きな課題に直面していました。

ひとつは「採用」の問題。B to Bをメインとした設備会社であるため、そのイメージは現場で汗をかいてクタクタになるまで働くという「ブルーカラー」そのもの。就職サイトでの僅かな説明では、そのようなステレオタイプのイメージだけを想起させてしまうため、若者たちに会社説明会に来てもらうことすら困難な状況でした。
もうひとつは「社内コミュニケーション」の問題。社内アンケートを実施したところ、ベテランと若手社員の間で仕事に対する向き合い方や会社への想いなど、多くの項目で「世代間ギャップ」が存在することが明らかになっていました。
新しい社員が入って来ない。入社しても、先輩社員とギャップが生まれる。これら2つの課題をどのように解決していくのか。企業トップと歩む二人三脚での試行錯誤がはじまりました。

 

将来会社がどう変わるかを社員と共に考える

まず最初に、「世代間ギャップ」をできる限り少なくするため、社員の一人ひとりがどのようなビジョンや想いを持っているのか確認する施策を実施しました。『セイフル2030 できることマップ』と名付け、向こう10年の間で「会社がどんなことをしたらいいか」「どんな会社になればいいか」「会社として街にできることはないか」などを考えてもらうというものです。
それらはすべてイラスト化され、2030年までの経過を『セイフル2030』の特設サイトで確認できるようになっています。

このように「目に見えるカタチ」にすること。コミュニケーションを促進する上で最も重要な施策のひとつですが、実際には分かってはいても、なかなか可視化できないものです。しかし、一度カタチにしてしまえば、さまざまな変化が起こりはじめます。

この施策を実施したのは2021年。まだ2年強でありながら数多くのアイデアが現実のものとなりました。それらは、年毎のカレンダーになっており、どれが実現できたかを見ることができます。

社員の熱い気持ちと、会社の真摯な姿勢が伝わりやすく可視化されたこのコンテンツは、採用説明会でも活用することで、「ブルーカラー」のイメージを持った学生たちの誤解をほどくきっかけとなっています。

スポーツマーケティングで学生との接点創出

『セイフル2030できることマップ』と並行して行ったのが、地元の学生との“接点”をつくること。一企業が、学校で広報活動をすることはできないため、媒介となる「新しい何か」を用意する必要がありました。

そこで、地域密着型の「スポーツ· マーケティング」を実施することにしました。21年にオーナーの変更によって生まれ変わった埼玉を拠点とするBリーグチーム『さいたまブロンコス』(B3)とスポンサー契約を締結することで、埼玉新聞など地元メディアをはじめダイヤモンド社といった大手経済メディアなど、多数取り上げられました。
(深谷市にはバスケットボールの名門と言われる高校があり、競技人口も全国屈指であったことも話題化の素地があると見込めました)

©さいたまブロンコス/セイフル株式会社
©さいたまブロンコス/セイフル株式会社

深谷市での試合会場『深谷ビッグタートル』(2000人規模)で開催されるホームゲームでは、冠スポンサーとなり、地元の高校生、大学生がスタッフとしてBリーグの試合運営を内側から体験できるインターン施策を実施。学生たちだけでなく埼玉県でもセイフルの認知度は着実に上がっています。

 

町に明るい希望のきざしをつくっていく

セイフル株式会社と伴走しはじめた2020年は、まさにコロナ禍に突入した年。そんな状況下だからこそ、「インフラをつくる企業として町に何かで貢献をしたい」という強い想いを持っていました。それは『セイフル2030』中で社員アンケートでも描かれていることのひとつでした。

「70年やってこれた感謝を街の未来に貢献したい」
「同じことをしていては新しいものは生まれない」

コロナ禍という特殊な状況になり、社内で議論する時間も増えたことで、いままで想いはあってもなかなか実現することが難しかった新しい施策を通して地域と関わっていく新規事業を立案しました。

そうして生まれたのが日本初のバスケットボールコート付きクラフトビールレストラン『3on3 Fukaya』です。

町のインフラを整えることがこの町で暮らす人たちの豊かさに

創業から70年。長年裏方として多くのインフラ整備に携わってきたセイフル株式会社が、今度は地域の人とともにつくり上げていく新しい形のインフラ(=町の人たちの心がもっと豊かになれるハブとなる場所)をつくりました。

インテリアデザインは、「ダンデライオン・チョコレートファクトリー&カフェ蔵前」や「sequence MIYASHITA PARK」を手がけ、人が集う場所の心地良い空間設計で高い評価を得ているPuddleの加藤匡毅(かとうまさき)氏、建築はCAMP SITEのみなさんに手掛けていただきました。

日照時間が長く太陽の光を強く感じる深谷の風土や人とのコミュニケーションを生み出すことを大切につくられたこの空間は、「人が集ってはじめて完成する場所」。明るく開放的で親しみやすく、人と人が縦横無尽につながり行き交う様を思い描いて設計されています。

Craft Beer Label Illustration by Azusa Iida(Liberty's Smile),Mitsuyasu Nemoto(白星),maegamimami(AROMATICO)

バスケットコートは自由の象徴

バスケットコートは、バスケットをするためだけのスペースではありません。夏はビアガーデンとなり、休日はマルシェ会場となり、ときには野外映画フェス会場やダンス会場になったりします。訪れた人たちが、楽しく、リラックスして、自由に表現できる場所がこのコートの本質です。

未来へ向けて、深谷の“魅力そのもの”になっていく

セイフル株式会社の本業はあくまでも町のインフラづくり。70年以上にわたって地道につづけてきた事業があるからこそ、何か"きっかけ"が必要とされるタイミングで「3on3 Fukaya」をつくることができました。

ここが町の人たちの憩いの場となると同時に、実験場となることによって、次なる明るいきっかけが生まれるハブになれば。そうなるように共に育んでいこうと思っています。

CREDIT

3on3 Fukaya
建築プロデュース:ナノアソシエイツ
建築設計:株式会社キャンプサイト
インテリアデザイン:Puddle株式会社
建築施工:古郡建設株式会社
アートディレクション:カレイドスコープ