映画で「世界」を語り合おう ー シネマ・ダイアローグ #004

『アニマル ぼくたちと動物のこと』

#004『アニマル ぼくたちと動物のこと』
©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

地球の生態系がかつてない危機に瀕する今、私たちは「人間と動物の境界を超えた“共生”のあり方」を改めて問われています。ドキュメンタリー映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』は、動物保護と気候変動問題に取り組むふたりのティーンエイジャーが、気候変動と種の絶滅という大きな危機の核心に迫ろうと決意し、絶滅を食い止めるための答えを探るべく世界を巡る旅に出ます。成長や発展を追い求めてきた人類が、これから目指すべき新しい価値観はどこにあるのか?本作の配給を手掛けるユナイテッドピープル代表の関根健次氏と一緒に探っていきます。

地球の“直し方”を知らない私たち

アソボット 伊藤剛(以下「伊藤」):この映画を観てまず思い出したのは、1992年の地球サミット(リオデジャネイロ)で、12歳の少女セヴァン=スズキさんが行った伝説のスピーチでした。このスピーチを改めて今聞き返してみると、この映画の本質を突いているなと思ったので、最初に少し引用します。

「あなたがた大人は、オゾン層にあいた穴をどうやってふさぐのか知らないでしょう。死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか知らないでしょう。絶滅した動物をどうやって生きかえらせるのか知らないでしょう。そして、今や砂漠となってしまった場所にどうやって緑の森をよみがえらせるのか知らないでしょう。だから、大人のみなさん、どうやって直すのかわからないものを、壊し続けるのはもうやめてください。」

「大人たちは環境を修復する方法を知らないのだから、壊し続けるのをやめてほしい」みたいなことを繰り返し言っていたんですね。これを現代風に言えば“生成の仕方”と言っても良いのかもしれないけれど、この部分が僕の中ではすごく刺さりました。それはきっと、日頃から自分自身が何かを“作り出す”仕事をしていて、そういった業界に長くいるからかもしれないけど、「そっか、この地球の環境は、どんなにテクノロジーが進んだとしてもも、人間がもう二度と作り出せないものなんだ」という当たり前のことに気付かされたというか。

ユナイテッドピープル・関根健次(以下「関根」):そうですね。改めて、そのスピーチから30年以上が経っているわけですが、地球環境はその時からさらに悪化していて、過去40年間で絶滅した脊椎動物の個体数はすでに60%以上と言われ、地球誕生から6度目の大量絶滅に人類は今直面しています。僕はこの作品を観て最初に思ったのは、映画の中心人物であるベラとビプランをはじめ、今この時代を10代で迎えた子どもたちって、生まれた瞬間にもう目の前に地球危機がある状態なわけで、その絶望感は子どもたちだけに背負わせてはいけないっていうこと。そんな環境を作ってきてしまった我々は、責任の重さを今一度考えなければいけないですね。

伊藤:確かに。「少しでも希望が欲しい」「今まで悲惨なモノしか見てきていないから力を尽くす人を見てみたい」という2人の切実なメッセージが冒頭にありますが、僕も子を持つ親として「なんてこの子たちは賢くて勇敢なんだろう!」みたいな気持ちには全くなれませんでした。今の若者は社会課題と向き合うことが当たり前、前提、みたいなことになってしまっているけど、その“負債”があまりに大きすぎて、どこから手をつけて良いのかわからない子も結構いるのかもしれないと思います。ひとつのスマホの画面の中で、陽気なTikTokと、気候変動やガザ侵攻などの悲惨が映像が並列に映し出される歪(いびつ)さと苦しさ。それをどこまで認識できているかは個々に差があるとしても、そういった“日常の中の不道徳”に気づきながらも耐えていかなければいけない精神性を、今の若者は求められてしまっているのではないかと危惧しています。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

“成長”は悪なのか?

伊藤:「人間がどうしても追い求めてしまう“成長”を、別の何かに置き換えるには?」というのも、この映画が投げかける重要なテーマのひとつだったかと思います。我々はこのまま“成長”を求め続けてはいけない。であれば、何が新しい指標となり得るのか・・・。現代のキーワードで言うと「ウェルビーング」とか「均衡」という言葉が近いかもしれないけど、個人で捉えるには難しいテーマではありますよね。

関根:なかなか難しいですよね。NHKの番組に『欲望の資本主義』というシリーズがありましたが、僕たちはずっと資本主義経済の中で、「成長したい」という欲望を原動力に生きてきてしまいましたから。

伊藤:そうですね。しかも、「今日より明日をより良きものにしたい」「親として子に成長して欲しい」「自分自身も成長したい」という思考そのものを止めることはおそらく無理で、否定もできない。「成長は悪だ」と言葉で言うのは簡単だけど、別の何かに置き換えるのは実は想像以上に複雑で難しいです。

関根:ガンジーがかつて指摘していた、7つの大罪「理念なき政治」「労働なき富」「良心なき快楽」「人格なき学識」「道徳なき商業」「人間性なき科学」「献身なき信仰」に何かヒントがありそうな気がしますが、今すぐにはなかなか見つからないですね。でも、やっぱり、“循環”という言葉は近しい気がします。“サステナブル”だと、“持続”“維持”みたいなニュアンスが強くてしっくりこないけど、裏山に生えた筍を今年たくさん採りすぎると来年出てこないぞっていう当たり前でシンプルな“循環”という考え方が“成長”に代わる言葉として大切なように思います。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

動物への愛を、人間を憎むのに使ってはならない

関根:探究心にあふれたベラとビプランですが、映画がこの二人の成長を促している、というところも僕はこの映画を良いな思ったポイントのひとつです。この作品に『アニマル』というタイトルが付けられている理由にも繋がるところですが、彼らは最初、「人間 vs 動物」という対立構造で自然界を捉えてしまっています。我々はずっと人間と動物を分けてきてしまった歴史があるので、主人公の彼らだけでなく、誰もがその対立構造に陥りやすいと思うんですが、その意識を脱して、人間も動物も同じ『アニマル』の1種と捉えようというのがこの映画の大切なメッセージのひとつで、それが彼らの成長を結果的に後押ししているというのが良いですよね。

伊藤:映画の中に出てくる「君たちは動物への愛を、人間を憎むのに使ってしまっている」という言葉がまさにそれですね。僕もそのフレーズにハッとしました。

関根:そう。自然を破壊し続ける人間に対して、真正面から憎悪をぶつけていく二人だけど、「人間も動物の一部なんだから、動物と同じように愛しなさい」と言われて段々と意識が変わり、それによって自己肯定感も上がっていきましたよね。

2025年という年は、環境、経済、平和、教育、多様性、あらゆる面で希望がシュリンクしていった感覚がありますが、この映画を観て改めて「どうやって子どもたちに希望を感じてもらうか?」ということを考えさせられました。子どもたちに「このまま大人になっても絶望しかないじゃん」とは思われたくはない。じゃあ、何からやっていけばいいのか。人間という動物の一種として、どうしたらこの環境を循環させながら共生していけるのか・・・。この映画をヒントにしながらぜひディスカッションしてもらえたら嬉しいです。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

『アニマル ぼくたちと動物のこと』
監督:シリル・ディオン
出演:ベラ・ラック、ヴィプラン・プハネスワラン、ジェーン・グドール 他
撮影:アレクサンドル・レグリーズ 編集:サンディ・ボンパー
プロデューサー:ギヨーム・トゥーレ、セリーヌ・ルー他
原語:英語、フランス語
原題:ANIMAL
配給:ユナイテッドピープル
105分/フランス/2021年/ドキュメンタリー

上映会開催の手引き

この作品は、誰でも「自主上映会」を開催することができます。
詳しくはこちらをご覧ください。
また、上映会を開催した際に、シネマ・ダイアローグとして「対話するための問い」をいくつかご用意してみました。こちらもぜひご参照ください。

シネマ・ダイアローグ・トピックス

1. 過去40年間で絶滅した脊椎動物を具体的に調べてみよう

2. 気候変動について、あなたがこの10年間で感じている変化を書き出してみよう

3. 映画の中で描かれていた「6度目の大量絶滅」という言葉を聞いて、あなたは自分の生きている時代をどのように捉え直しましたか?

4. 映画の中で印象に残った「人間の活動による自然破壊」のシーンは何でしたか。それは、あなたの消費行動や仕事とどうつながっていると感じましたか?

​5. 畜産や漁業の現場で働く人たちの悩みや葛藤を見て、「加害者/被害者」という単純な図式では語れないと感じた場面はありましたか? それはどのような場面でしたか?

6. もしあなたが、映画の2人と同じように「旅をしながら学ぶ」機会を得たとしたら、どの場所の、どんな現場(森、海、農場、都市など)を訪れてみたいですか? その理由は何ですか?

7. 映画の原題が「ANIMAL」であり、その言葉の中に人間も含まれているという話が出てきますが、「人間も動物の一種だ」と捉えたとき、あなたの暮らし方や仕事との向き合い方で変えたいと思うことはありますか?

​8. あなたは「人間と動物の境界線」をどこに引きますか?

9. この映画を観る前と後で、「成長」という言葉のイメージはどのように変わりましたか?「成長」を別のものに置き換えるとしたら、あなたにとって新しい指標は何でしょうか?(例:豊かさ、ウェルビーイング、循環など)

​10.「君たちは動物への愛を、人間を憎むのに使ってしまっている」という言葉について、どう感じましたか? あなたは何や誰に対して怒りや無力感を抱いていますか?